バラック実験とシールドケースに収めた場合で特性が大きく変わることがあります. 同じ原因でプローバーでの測定とSonnetの解析結果が異なることがあります. Box共振とか,キャビティ共振,導波管共振と呼ばれる現象がその原因です.

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蓋の有無による破局的な変化

高周波回路をケースに収めるとバラック実験の性能が再現しないことはよくあります. 右図で赤は蓋なし,青は蓋ありです. 3.6GHzでは破局的な何かが起こっています.

この"何か"が起こると

という現象が起こります.


原因

右図は電界の様子で,左が蓋なし,右が蓋ありです. 蓋を閉じると一部の電波が線路から飛び出して,ケース内を飛び交ってこの現象を引き起こします.

マイクロ波の教科書ではキャビティ共振とか,導波管共振とかTE011モード共振と書いてあります. SonnetではこれをBOX共振と呼んでいます.


予測と発見

Sonnetでは [Analysis]-[Estimate Box Resonances]と操作すると 解析周波数範囲にある危険な周波数を予測してくれます.
共振が予測されるなら,これ以上設計をすすめる前になにか対策を考えたほうがいい でしょう. 解析は通常より時間がかかるでしょうし, 実験では次のような嫌な現象に悩まされるからです.


幸い,この現象は次の方法では明確には現れません.

次の"安易な対策"は,この現象が現れにくい状態をつくることです.

安易な対策

次の方法でとりあえずこの現象から目を逸らすことができます

  1. 製品に蓋をつけない
  2. 製品の内側に電波吸収体を貼る
  3. Sonnetで[Circuit]-[Box],そして[Top Metal]を[Free Space]にする.

製品に蓋をつけない

BOX共振は箱の大きさがおよそ1/2波長になる周波数で起こります.
不要放射は回路の大きさがおよそ1/10波長になる周波数から起こり始めます. 右のグラフは周波数に対する放射レベルの解析結果です.0.1GHzと1GHzの間で 40dBも放射レベルが上がります.
つまり 回路から飛び出た一部の電波を野放しに放射することになります.

また回路の性能を確実に劣化させます.


製品の内側に電波吸収体を貼る, Sonnetで[Top Metal]を[Free Space]にする

回路から飛び出た一部の電波を吸収して熱にします. つまり回路の性能を確実に劣化させます.

対策の問題点

これらの方法は回路から飛び出た一部の電波を,周囲に放射して撒き散らすか, 吸収して熱にするかのどちらかです. どちらの場合も回路からの放射を許した時点で回路損失により性能が劣化します. これを許容できる多くの製品で使われています. 特に次のような場合です.

蓋を開けたり,電波吸収材を貼り付けるのは量産直前でもできます. しかし設計段階から対処すればよりよい性能が得られるでしょう.

設計上の対策

性能の劣化が目立つ回路

低損失な回路構造で且つ狭帯域な回路では少しの損失の増加が回路の性能を劣化させます.電波吸収材はそれらの性能を台無しにしてしまいます.

これらの回路は回路構造のほんの少しの損失が,回路の大きな損失につながるので コストの掛かる低損失材料を使っているにもかかわらず,回路の通過損失は悪い場合が多いです.そこで放射損失を許容してしまうと低損失材料にかけたコストが台無しになります.

例1:Boxを幅狭くする

このモデルは5.15GHzのバンドパスフィルターです. プローバーやバラックでの測定では通過損失は-5.5dBです.(右図青色) テフロン系の高性能な基板を使っていますが,帯域幅が中心周波数の2%程度という狭帯域なので損失が大きいのです.
しかもBoxの蓋を閉めるとまさに破局的な変化が起こります.(右図桃色)


Boxを小さくするのはBox共振に対する根本的な対策です.特に線路の長さ方向でなく,両側までの距離を短くするのが効果的です. 基板から天井までの距離も忘れずに短くしてください. (同軸ケーブルはこれらを究極的に狭くした構造といえます.)

このモデル例では,対策によってBox共振がなくなるだけでなく, 通過損失が1db向上しています.(右図赤色) Boxを小さくし蓋を閉めることで放射損失が無くなるからです.


例2:Box上下を短絡する

このモデルは高周波材料の評価に世界中で広く使われているリング共振器です. 中央のリングの周長が波長の整数倍になる周波数と 共振の幅から基板材料の誘電率とtanDを知ることができる

と信じられていますが,この構造の実測は意外に難しく致命的な誤差に気づかない場合が多いです.


図で青はバラック測定,赤は蓋を閉めた状態です. 周長が2波長になる3.4GHz付近で異常には誰もが気づきます. しかしもっと深刻なのは1.7GHz付近です. 蓋の有無で共振の幅が20%も変わっています. バラック測定では放射損の為にこの回路の損失が20%も悪く測定されるのです. これに気づかなければ基板のtanDを20%悪く評価してしまいます. 材料開発で20%の誤差は致命的です.


困ったことにこの共振器は大きくて, Boxを小さすると共振器を収めることができません.

Boxの中央で蓋と床を太い導体で接続するとBox共振の周波数を 高い周波数に大幅に押しやることができます. これにより3.4GHz付近の共振を蓋を閉めた状態で観測できるし, 1.7GHz付近の帯域幅は放射損の無い本来の幅になります.

太い導体の断面形状は任意ですが,太くなければなりません. 太い構造が実現できないなら細い導体を何本も並べて代用することもできます. この太い導体はBox共振の影響だけを排除し,本来のリング共振器の性能に影響を与えません.このように特定の電波のモードに選択的に影響する構造をモードサプレッサとかモードフィルタと言います. その時その時の課題に応じてモードサプレッサの構造を発案することは マイクロ波技術者の重要な仕事と言えます.


←高周波が専門で無い方向けに,忘れられがちな大切な概念を解説した文書です.
金属箱の上下の導体が独立した線路の様に振舞う現象.波長と箱の大きさの比が 一定範囲を超えると電気回路の理論が崩れてしまうことなど,筐体共振を何故知る必要があるかがわかります.