600MHz増幅器の設計と測定:Sonnetを使った設計プロセスの一例としてその過程を紹介する.

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概要

600Mhzで15.5dBの増幅器を設計、試作し下図のように解析とのよい一致を得た.Sonnet電磁界シミュレータを使った設計プロセスの一例としてその過程を紹介する.

目標

概算設計

トランジスタのデータシートから回路構成の概要を検討する.

直流バイアス

bfp193のデータシートを見ると1.5V5mAでぎりぎり15.5dBの利得が取れる. それ以上の電圧なり電流なら安定して動作しそうに見える.

直流HFE=50〜200,100typなので1.5V動作させるとすると、 HFE=50の場合Vcc=1.5V,RB=15kΩの固定バイアスとしてIc=2.7mA
HFE=200としてIc=11mA
これでは動くにしてもぎりぎり

もし電源に余裕があれば 2V10mA流せば余裕がある. 例えば電源電圧3Vとすれば、電圧帰還バイアスで Rc=100Ω,Rb=12kΩ. こちらのほうが現実的.

1.5V5mAで設計して、実際には2V10mA流して余裕のある領域で動作させる.

整合

1.5v 5mAの 0.47-0.77GHzの範囲のS11とS22を見ると
S11は10Ωくらいでキャパシティブなので直列インダクタと並列キャパシタで整合できそう
S22は50Ωくらいでキャパシティブ、直列インダクタだけで、 50Ωよりやや高めにできるかもしれない.


幸い 1.5v5mAでも2v10mAでも整合条件はほとんど同じ、1.5V5mAで設計しておけば2V10mAでもそこそこいくだろう. ゲインはたぶん4dBくらい変わる


回路シミュレーション

上記の検討を踏まえて、 sonnetのnetlistプロジェクトで整合回路を回路解析してみると ( matching1.zon

帯域内で S22は 12dBくらい.S11は余りよろしくないのでS21が下がる高域側重視にしておく. きちんと整合させるなら、整合回路を多段にするなりの工夫が必要だが、 今回の用途は整合は余り重要じゃないのでこれでよしとする.


帯域外は素直な特性で不自然な動きはない. しかし低域の過剰利得を押さえないと飽和するかもしれない. 簡易的には入出力の結合キャパシタの容量を小さめに、 本格的にはバンドパスフィルタなりが必要かもしれない.


電磁界解析

まずはインダクタやパット付のキャパシタなどのコンポーネントごとの電磁界解析を行い、それらの特性を把握する. 次に整合素子を配置して高周波特性を確認する. その後バイアス供給回路だけを単独で設計し、動作を確認したら、 全体の回路レイアウトを決めて、電磁界解析を行う.

スパイラルインダクタの特性把握

インダクタを2つ使うのでスパイラルインダクタで実現可能か検討する. L/S=0.2,0.2で巻き数を2,3,4,5と試してみた.

外形 N L fp
1.4mm□ 2T 3.8nH >10GHz
2.2mm□ 3T 11nH 6GHz
3mm□ 4T 24nH 3.2GHz
3.8mm□ 5T 44nH 2GHz

がしかし、そんなに小さなviaは今回のプロセスでは使えないので、現実的なvia径とパッドを追加すると L/S=0.2,0.2

外形 N L fp
3.2mm□ 2T 19nH 2.3GHz
4mm□ 3T 40nH 1.3GHz
4.8mm□ 4T 71nH 0.84GHz
5.6mm□ 5T 111nH 0.6GHz

つまり整合用のインダクタは高々10nHなのでスパイラルインダクタは不要で、 整合回路は単なる高インピーダンス線路で構成することになる. バイアス系回路には0.47-0.77GHz付近に自己共振点を持つ4Tあるいは5Tのスパイラルインダクタが必要になる.


線路幅と線路インピーダンス

線路幅と線路の特性インピーダンスの関係を解析しておく. ( zo.zon) 75Ωは1.4mm

整合回路の設計

TRのみ

トランジスタのみをマウントした状態( amp1.zon)


整合素子を入れてみる

ベース側のキャパシタは回路解析では5.3pFだったが、5pFに変更し、 整合インダクタはとりあえず0.5h間隔で折り返したミアンダ線路とした. その上で線路長だけ最適化した. amp2.zon


バイアス供給回路の設計

キャパシタの自己共振

キャパシタのパッドや接地ヴィアも含めた自己共振周波数を調べておく. cap.zon

1pF 4.06GHz
2pF 2.89GHz
5pF 1.83GHz
10pF 1.05GHz
22pF 0.87GHz
47pF 0.59GHz
100pF 0.4GHz

チョーク

:w バイアス供給回路を構成する一段分を解析しておく. 右図のようにインダクタの自己共振周波数fpと キャパシタの自己共振周波数fsがほぼ等しいような インダクタとキャパシタを組み合わせてみる. 理想的には

になるように設計する.

概ね0.8GHz付近に共振点を持つ 4Tのインダクタと22pFの組み合わせ. 高域の減衰が弱い. choke1.zon


概ね1.3GHz付近に共振点を持つ 3Tのインダクタと8pFの組み合わせ. 低域の減衰が弱い choke3.zon


概ね2.3GHz付近に共振点を持つ 2Tのインダクタと3pFの組み合わせ. 低域の減衰が弱い choke2.zon


0.8GHz付近に共振点を持つ4Tチョークと22pFでまず0.47-0.77GHzの 入力インピーダンスを保ち、 その後 2Tチョークと3pFで高域を落とす choke12.zon
帯域内で、チョークを見たインピーダンス. 理想的な位置にきているのでバイアス供給回路はこれで完成とする.

全体の電磁界解析

アンプにチョークをつけて、さらに入出力のカップリングキャパシタもつけて電磁界解析した.信号端子と電源端子との結合S32が全周波数帯域で非常に低く抑えられていることに注意.これにより電源系を通じた信号漏洩や不要放射を抑えられる.


試作と測定

FR4 1.6t基板で試作.viaの直径は0.8φ


電源電圧は3V、 トランジスタに流れる直流は2V10mA.
測定系は同プロセスを使った基板上にOSLT標準器を製作して校正した. 測定基準面は解析モデルと同じ位置になるよう校正してある.


設計段階では トランジスタのデータを 1.5V5mAで進めたので、 実験と同じ2V10mAに置き換え、さらに インダクタのエアブリッジの高さも実際にあわせて0.3mmにして電磁界解析をやり直した. amp5.zon


むすび

一回の試作で設計どおりの特性を得ることができた. 最近では高周波用集積回路の普及とともに、 この例のように単独のトランジスタにあわせて整合回路を設計する機会は減っていると思われる.しかし、ここで示した

  1. データシートと回路解析を使った概算設計
  2. 部分ごとの電磁界解析でレイアウト要素の特性を把握
  3. バイアス供給回路の評価
  4. 全体の解析
という 設計の進め方は踏襲していただきたいと思う. このような段階的な設計プロセスこそが、 少ない設計リソースで、早い段階で問題を発見し、原因を把握し、 次の仕事に生かせる知見を与えてくれる.

参照リンク