リモコンなどに使用される315MHzの微小ループアンテナ設計のコツについて解説します. 最初にループアンテナの大きさによって、ループアンテナを分類しその特徴を説明します. 次に問題のループアンテナの等価回路を検討し、そこから設計上考慮すべき項目を明らかにします.

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アンテナ解析モデルを作る場合に注意すべきことをまとめてあります.
←13MHzRFIDやワイヤレス給電の検討に必要な技術知識や解析手法をより詳しくまとめてあります. 微小ループアンテナの等価回路導出にも必要です.

まえがき

リモコンなどに内蔵される 315MHzの ループアンテナの設計に 電磁界シミュレータソネットをお使いの方がいらっしゃいます. その場合、 アンテナの動作について、定性的にでも概念を理解しておかなければ、 シミュレータの結果を評価し、 そこから設計や開発の指針を導くことはできません. ここではそれらのお客様に解説している内容をまとめ、 今後同様の問題に取り組む方への参考としたいと思います.

二つのループアンテナ

ここではループアンテナをその大きさから、二つに分類します.

キュービカルクワッドアンテナ

キュービカルクワッドアンテナは、 ループの一周の長さがほぼ一波長で、 設計や施工が比較的容易で30MHz〜3000MHzのVUHF帯で盛んに用いられました.単にクワッドとか一波長ループと呼ばれることもあります. 形状は四角に限らず円形や三角形などの変形が可能です.巻き数は通常一回です.多数巻きにしてもアンテナパフォーマンスは向上しませんが、 入力インピーダンスを大きく変化させることができます.

一波長ループなので右図のようにループの右手前を流れる電流idとループの左上を流れる電流iuは、位相が逆になります. それゆえ、ループから離れた点Aでは、idから放射される電波とiuから放射される電波は強めあいます. このアンテナではループ面に垂直な方向の放射が強くなり、その放射レベルは、+2dBi〜+5dBiになります.

微小ループアンテナ

微小ループアンテナは例えばAMラジオの内蔵アンテナ (波長300mに対してループの直径数mm) のように波長に対して非常に小さく、 パフォーマンスはキューブカルクワッドに比較すると桁違いに悪くなります.

微小ループでは、その大きさが波長に比べてとても小さいので (ループが何回巻きであろうと) 右図のようにループの手前側を流れる電流idと 向こう側を流れる電流idは同位相になります. それゆえ、ループから離れた点Aでは、idから放射される電波とiuから放射される電波は打ち消し合います. 一方点Bでは idから放射される電波とiuから放射される電波は微かにB点までの距離が違うので 打ち消されず、微かな放射があります. 全体の放射パターンは右図のような8の字型になります. 放射レベルはループの大きさ(あるいはループの面積)に依存します. 微小ループの名の通りループの大きさは波長に比べてとても小さいことが多いので 一般に放射レベルは非常に弱くなります.

キュービカルクワッドの解析モデルの一例

この文書で解説するアンテナはもちろん微小ループアンテナですが、 微小ループアンテナについて詳しく論じる前に、 参考としてキュービカルクワッドアンテナの解析例を紹介しておきます.

このモデル は315Mhzのキュービカルクワッドアンテナの一例です. キュービカルクワッドは半波長ダイポール2本が直列になったものと考えることもでき、インピーダンスは概ね半波長ダイポールの二倍 150Ωになります. 50Ωに整合させるためには別途工夫が必要ですが、この解析ではポートを150Ωに設定して対処しました.放射レベルは+3.4dBiでした.

微小ループアンテナの等価回路

微小ループアンテナの等価回路について考えます.

微小ループアンテナは波長に比べてとても小さなループですから、 端子から見たインピーダンスZは  インダクタンスと同じく、 Z=jωL で変化するはずです.しかし、端子間の浮遊容量や、特に多数巻きの場合は線間容量とともに 並列共振回路を構成することがあります.

その場合、端子からみたインピーダンスZは図のように 共振周波数で極値をとります. このときもし系に損失が無ければ 端子から流れ込む電流は0で、 共振回路の内部には無限大の電流が流れるので、 アンテナのパフォーマンスが改善されます.

ところが実際の回路には損失があるので、等価回路には損失を現す抵抗Rが入ります.端子から見たインピーダンスZの周波数特性は、 下図のようになります.

この損失の要因は次の三つです.

導体損失 Rc
主に巻き線の導体抵抗に起因します.高周波での損失は直流で測定した値よりはるかに大きな損失になる場合があります.
誘電体損失 Rd
誘電体の損失です. 空気の損失は非常に小さくほとんどの場合無視できます. ガラスエポキシ材料など一般的な基板材料は無視できない損失を持っていることがあります.
放射損失 Rr
注入したエネルギーのうち、空間に放射されて失われる損失です. つまりアンテナの場合はこの放射損失は大きいほどよいのです.

この様子を等価回路に表現してみます. この等価回路は並列回路なので

損失が大きいとは
Rが小さいこと
損失が小さいとは
Rが大きいこと

ということに注意して下さい. RcやRdに比べてRrが小さければ、 アンテナに注入したエネルギーが空間に放射されることを意味します. また、信号源からアンテナにエネルギーを効率よく注入するためには 信号源の内部抵抗がアンテナの抵抗(RcとRdとRrの並列)と等しくなければなりません.

以上の等価回路についての検討からアンテナの設計に重要な三つの目標が理解できます.

  1. 共振させること
  2. 整合させること
  3. 放射損失が大きいこと

これらは微小ループアンテナに限った目標ではありませんが、 以下に微小ループアンテナの場合に注意すべきことを具体的に見てゆきます.

共振させるには

等価回路の冒頭で説明したように、 浮遊容量と微小ループアンテナの巻き線で並列共振回路を構成することも可能です. しかし、共振キャパシタCが浮遊容量Cfだけで実現されているとすると、浮遊容量Cfが例えば30%変化すると、共振周波数はおよそ15%変化することになります. そこで、不安定な浮遊容量Cfと、なにか安定なキャパシタCsを並列にし、Cs > 10 * Cf 程度にしておけば、Cfが30%変化しても Cの変化は3%、それ故共振周波数の変化は1.5%に収めることができます.

整合させるには

微小ループアンテナの抵抗Rは極端に大きな値になることが多いです. 例えば、10kΩとしましょう. 一方それと接続する信号源の内部抵抗はそれよりずっと低いことが多いでしょう. 例えば50Ωとしましょう.

10kΩの Rと50Ωを接続する整合回路を二素子で構成するには 次の二通りの方法があります. どちらも整合回路ですが、整合素子Ls,Cp,Cs,Lpのばらつきや実現性、 そして損失を考慮して選択しなければなりません.

Cs,Lpを使う右側の回路をアンテナと接続すると、 下図のようにLpとLは並列になるのでひとつにまとめることができ、 外付け部品はCsだけで整合回路ができたように見えます. この場合アンテナの共振周波数はL,Cで決まりますが、 それを測定することは困難です. (LとLpの並列)とCで決まる共振周波数は少しずれた値になります.

他に、下図のようにトランスを利用する整合法もあります.

放射を大きくするには

放射を大きくするには二つの方法があります.

放射損失を増やすには

ループを大きくします. 他の方法は?ありません.

内部損失を減らすには

導体損失を減らすには良い導体を使います.表面を滑らかにし、内部の導体組織を密にします. 特にセラミック厚膜導体や、微小導体パウダーを印刷する製法では注意が必要です. 導体の断面形状も円または鋭い角の無い形が良いです.導体パターンを細くしすぎてはいけません.また鋭い曲げは避けます.お金に糸目をつけないならヘリウムに漬け込むととてもよいです.

誘電体損失を減らすには 良い材料を使います.お金に糸目をつけないならセラミックやテフロンが良いです. しかし発泡系の材料の誘電体損失は一般にとてもよいです. 誘電体損失は主にキャパシタの部分で生じるので、基板をすべて良い材料にしなくても 低損失のセラミックを使った小容量のキャパシタは検討の価値があります.

解析モデルの例

閉じた空間に置かれた解析モデル

このモデルは315MHzの微小ループの一例です. ループの周りに、ループの直径Dとほぼ同程度の間隔を隔てて解析空間の境界を設定してあります.境界はすべて電気壁(理想的な金属)です. つまり図のように小さなシールドボックスに収められた状態です.

つまりこれは、まったく電波を放射せず、アンテナではありません.

このモデルでは、放射抵抗Rr=∞ です.


アンテナの構造を右図に示します. 四角いブロック状の部分はvia holeです.左側のvia holeの半ば,赤い線で示したA部で via holeを切断し、その切断面の上と下に観測点の二つの電極を接続して解析しています.A点の上に流れた電流はループを回って右側の Via holeを通って下の層に移り、短い導体パターンを経てA点の下に戻ります. この経路がループです.B点に示す短い導体は対抗する上の層の導体との間で並列キャパシタを構成しています.これによって並列共振回路になっています.

このモデルを解析しインピーダンスの実数部と虚数部をそれぞれプロットしてみます. 理論どおりの曲線になりますが、共振点は315Mhzよりやや高めになっています. 共振点でインピーダンスの実数部はおよそ8.5KΩです.これはRcとRdの並列で、Rrは含んでいません.

広い空間に置かれた解析モデル

このモデルは、上の微小ループを広い空間に置いたモデルです. ソネットでアンテナを解析するときのガイドラインに従って、 アンテナの上下に約1/4波長の空間を置き、上下面は Free Spaceに設定してあります. アンテナの周囲には1波長の空間を隔てて側壁を配置してあります. このモデルでは電波が放射され、

等価回路のRrが含まれます.Rrを含めることで、このアンテナのインピーダンスの実数部は変化するはずです.


Rrを含んだモデルと含まないモデルのインピーダンスを同時にプロットしました. 周波数も少し動いてしまいました. しかし肝心なのはRe(Z)です.

拡大してみます.
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共振点でのインピーダンスの実数部はおよそ8.5KΩです.
変化がありません.なぜでしょうか?
このアンテナではRrが非常に大きいのです.つまりこのアンテナはたとえ広い空間に配置されてもほとんど電波を放射しません.

それでも、patvuを使って放射レベルを観測することはできます. この例では一番放射の強い方向で -31dBi程度です. この値は半波長ダイポールアンテナの 1/2000 です. 微小ループアンテナの放射レベルはこのように非常に低くなります.

アンテナ解析モデルを作る場合に注意すべきことをまとめてあります.
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